仮面のシンデレラ


私は、ポケットの中の笛へ視線を落とす。

どうやらこの笛は、“問いを口にしてから笛を吹く”と、知りたい真実を教えてくれる仕組みらしい。

ここには、オークションが終わったとはいえ、不思議の国の住人がたくさんいる。


(…地上に出て、人気(ひとけ)のない場所で笛を吹いた方がいいよね。)


ぐるぐると考え込みながら歩いていると、トン!と、前から歩いてきた誰かに肩がぶつかった。


「っと、すみません…!」


「…いえ。」


軽く謝り、私はすたすたと足を進める。

頭の中は、笛のことでいっぱいだ。


(…とりあえず、早く人間界に帰らなきゃ。もう、ウサギさんに振り回されてばかりじゃ身がもたない…!)


すると、その時。

わずかにまつげを伏せたウサギさんが口を開いた。


「ねぇ、アリス。」


「…今度は何?また魔法で詐欺を働くつもり?」


「違う違う。ひとつ言っていいかな?」


(?)


眉を寄せて彼を睨むように見上げた瞬間。

ウサギさんは思いもよらない一言を言い放った。


「アリス。今、笛を“スられた”よ。」


「えっ?!?!?!!」


ばっ!


急いでコートのポケットへ視線を落とす。

すると、さっき偽の大金で競り落としたはずの笛が忽然と消えていた。


(う、嘘っ?!本当に無いっ!全然気が付かなかった!)


背後を振り向くと、私達が異変に気がついたことを察した“犯人”が走りだす。

私は、反射的に体が動いていた。


「逃すかあっ!!!」


「っ!アリス、待っ………」


私は、ウサギさんの制止を振り切り、笛を奪って行った男を追いかける。

もう、笛への欲以外、私を動かすものはなかった。
< 30 / 250 >

この作品をシェア

pagetop