with
最近、やたらと夢を見る。
昔よく見ていた夢だ。


けたたましい、食器の割れる音。
男の怒鳴り声、
耳をつんざく、女の金切り声。

(おとうさんとおかあさんがまたけんかしてる)

いつもその騒音から逃げるように、自分の部屋で布団を頭までかぶって耳をふさいでいた。
そんな努力もむなしく、耳に音が残っている。

バシ。

何か、鈍い音がした。
悲鳴がして、不意に家の中が静かになる。
不気味な静けさに、私は布団から恐る恐る顔を出す。

(おかあさん?)

おかあさん、おかあさん、おかあさん。

―――死んじゃったかもしれない。

途端、暗闇の中で心臓が早鐘を打った。
ガンガンと身体中で乱暴に鳴り響く。

バタン!

部屋のドアが開いて、光が差し込む。

「佑香!佑香、お母さんと行こう」

わずかな蛍光灯の光で見えた、顔にアザを作った母親を見る。

「…どこに?」

一体、どこへ。

おかあさんは顔を歪めて、笑った。
無理矢理作ったひどくぎこちない笑顔だ。

「佑香は、お母さんと行くわよね?」

どこへ。

それがどういう意味か分かっていた。
分かりながら、唾を呑み込む。
すぐ返事をしない私を見て、女の目がかっと見開いた。
手が降ってくる。

(ぶたれる…!)

ぎゅっと目を閉じて、世界が真っ暗になる。


いつも、夢はそこで終わる。
< 29 / 75 >

この作品をシェア

pagetop