with
「ユカちゃん」

「はい」

「好きな人、いる?」

心の中で首を傾げる。

「いいえ」

どうしてそんなこと聞くの?

「ユカちゃん」

「はい」

「嫌なら嫌だって言っていいんだよ」

翔太サンをちらりと盗み見る。
頬骨がよくわかる横顔。
よく笑う翔太サンの笑わない顔。

ああ、わかった。
確認だ。

これから起こることの。

「はい」

しぼったボリュームが部屋にしんしんと響いている。
これから降るだろう、雪のように。

「オレのこと、嫌いならそう言っていいんだよ」

一瞬迷う。
答える言葉を探した。

「…嫌いじゃないです」

言った後に、この言葉で合っていたのかな?と思う。

「うん」

顔が近づいた。

少し慣れた、この距離感。
痛んだ髪の毛が頬にかかる気配。
止めた呼吸。

私は目を閉じた。


―――私たちは、どうしてこんなことをするんだろう。

本当はわかっている。

こんなことじゃ埋まらない。
こんなことをしてもわかり合えない。
孤独や傷が癒えるわけじゃない。

キスをしても、抱き合っても、それ以上のことをしても。

でも私たちはこんなやり方しか知らない。
体温から伝わる温度から得られる安堵をただただ求めるだけ。
おろかだと思いながら、求めてしまう。
ひたすら、貪欲に。

シーツの上で手を組むように互いの手を重ねた。

「ユカ」

一度、そう呼ばれた。
その瞬間、どうでもいいと思った。

どうでもいい。

刹那、自分に積もっていたすべてのしがらみが消えた。

充分だ。
もう何もいらない。

たった今この瞬間が手に入るなら、
私はもうそれだけで、いい。
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