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3-1

今年はじめての雪が降りました。

「げー降ってるよー」

ブレザーの下にセーターを着込んでエリカが言う。
首にはチェックのマフラー。
それはエリカのお気に入りで、中学生の頃にお母さんが買ってくれたものらしい。

「そろそろコート出さなきゃなーでも新しいコート欲しい。でもお金ないからなー、バイトしようかなー」

エリカはとりとめもなく一人で喋っている。
学校が終わって街に出てマックに入った。
100円マックは高校生の財布に優しい。
おかげでマック内は高校生だらけだ。
でも暇つぶしをするには最適。
2階の席の外側はガラス張りだから、雪が空から落ちてくるののが見える。

はらはら、はらはら。

あれから―――
翔太サンと寝た日から、少し過ぎた。

相変わらず、翔太サンは秋原家に遊びにくる。
私はときどき、翔太サンのうちに遊びに行くようになった。
その「ときどき」の日は、いつもより帰りが遅くなる。

お父さんもお母さんもケン兄も特に何も言わない。
その代わりのように、ケータイを持たされた。
真っ白で、おもちゃみたいなデザインのケータイ。
ケータイのことは、面倒だから友だちには教えていない。
知っているのは家族と、翔太サンだけだ。

「遅くなる時は、お父さんにメールしなさい」

と言ったのはお母さん。
お母さんはケータイを持っていないから、持っているお父さんにメールをすることになったらしい。

お母さんはたまに、私をじっと見ている。
何か物言いたそうな目で。

腕時計を見ると、4時を過ぎていた。

「私そろそろ行くよ」

エリカが「了解ー」と言ってのろのろ席を立つ。
今日は翔太サンちに行く日だった。

「佑香さー、最近なんかあった?」

空のジュースの容器を捨てている時にエリカが言った。

「なんで?」

「なんかねえ、雰囲気?
何となく付き合い悪くなった気がするし。
佑香って基本的にわかりづらいけど、何となく最近楽しそうに見えるんだよねえ」

わかりづらいって、おい。
私は笑った。
鈍いと思っていたけど、案外エリカは鋭いのかもしれない。

「別になんもないよ」

じゃあね、と逃げるように私はエリカと別れた。
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