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プルルル プルルル プルル

「はい、秋原です。」

1月3日だった、と思う。
年を越して、お正月気分で、家族がそろって居間でテレビを観ていた。
たぶん、数年前に随分売れた有名な映画の録画。
コメディ&ラブストーリーで、主役の二人がこの映画のあとにくっついたらしい。
時計は夜の10時を過ぎていた。

電話に出たのはケン兄だ。
私は何気なくケン兄を見る。

「え…?」

居間に、ケン兄の声が響いた。
ケン兄は背中を向けているから、表情が見えない。
ふと、二人がけのソファに座っていたお父さんとお母さんもテレビから目を逸らし、ケン兄を見ていた。

「わかりました。はい。どこの病院ですか?…K大付属の。はい、そこなら分かります。」

(病院?)

よくないことが起きたらしい。
私はケン兄の背中から、なぜか目を離せなかった。
まもなくケン兄は電話を切り、電話中にとったらしいメモを一枚手に持った。

「ちょっと病院に行ってくる。」

短いことばを誰にとなく残し、ケン兄は玄関に向かう。
お母さんがケン兄の上着を持ってきて渡す。
お父さんが「交通費」と言って財布からお金を渡していた。

ケン兄と目が合わない。

いやな、予感がした。
遅れて玄関先のドアの前から私は声をかける。

「ケン兄」

ケン兄は顔を上げた。
そして、しかめっ面をした。
一瞬ためらって、

「帰ったらおしえる」

そう言い残して、ケン兄は夜の外へ飛び出していった。

とてもいやな予感がした。
私は玄関前で呆然と立ち尽くす。
居間からコミカルな映画の音が響いていた。
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