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「佑香、俺は行ってくるけど」
私の部屋の入り口に立って、ケン兄が言った。
ケン兄は制服の上にコートを羽織っている。
「本当にいいんだな?」
私は頷く。ケン兄とは対照的に、部屋着のままで。
じゃあ行ってくる、とケン兄はドアを閉めて去った。
今日は翔太サンのお葬式だ。
おととい、翔太サンの遺体が検死から戻ってきたらしい。
お葬式の日取りが決まった、とケン兄から聞いた時、私は「行かない」と答えた。
ケン兄は訝しんだ。
当然だろう。
『最後なんだぞ』
ケン兄はそうも言った。
少し、怒ったような口調で。
でも私は「行かない」と言い張った。
長い沈黙の後、ケン兄はあきらめ顔で、「わかった」と頷いた。
「気が変わったら一緒に行こう」とも。
最後だと、わかっている。
“最後”
そう思うと、ぎゅっと胸が締め付けられる。
最後って、何。
翔太サンが死んだと知ってから、私は泣いていなかった。
涙が出てこない。
薄情だな、と思う。
でも、涙は出てこない。
ひどく苦しい気持ちになるから、いっそのこと泣いてしまいたいくらいなのに。
最後って、何。
お葬式で、棺桶に入っている姿を、息をしていない、あたたかみのない翔太サンを想像するとこわかった。
お葬式の、たくさん人が参列している中、私はどんな顔で焼香して、どんな顔で白装束を身につけた翔太サンと対面するんだろう。
それで、死者の手向けとして白い菊の花を添える。
吐き気がする。
お葬式の中で、私は自分を見失いそうだった。
私は翔太サンの何だったんだろう。
みどりさんに会って、どんな顔をすればいいんだろう。
友人の妹。
きっと、そうだ。
私は号泣するかもしれない。まったく泣かないのかもしれない。
どちらもその場にそぐわないような気がした。
本当はでもそんなことではなくて。
目を閉じる。
こわい。
翔太サン、ねえ。
死ぬって、どういうこと?
私の部屋の入り口に立って、ケン兄が言った。
ケン兄は制服の上にコートを羽織っている。
「本当にいいんだな?」
私は頷く。ケン兄とは対照的に、部屋着のままで。
じゃあ行ってくる、とケン兄はドアを閉めて去った。
今日は翔太サンのお葬式だ。
おととい、翔太サンの遺体が検死から戻ってきたらしい。
お葬式の日取りが決まった、とケン兄から聞いた時、私は「行かない」と答えた。
ケン兄は訝しんだ。
当然だろう。
『最後なんだぞ』
ケン兄はそうも言った。
少し、怒ったような口調で。
でも私は「行かない」と言い張った。
長い沈黙の後、ケン兄はあきらめ顔で、「わかった」と頷いた。
「気が変わったら一緒に行こう」とも。
最後だと、わかっている。
“最後”
そう思うと、ぎゅっと胸が締め付けられる。
最後って、何。
翔太サンが死んだと知ってから、私は泣いていなかった。
涙が出てこない。
薄情だな、と思う。
でも、涙は出てこない。
ひどく苦しい気持ちになるから、いっそのこと泣いてしまいたいくらいなのに。
最後って、何。
お葬式で、棺桶に入っている姿を、息をしていない、あたたかみのない翔太サンを想像するとこわかった。
お葬式の、たくさん人が参列している中、私はどんな顔で焼香して、どんな顔で白装束を身につけた翔太サンと対面するんだろう。
それで、死者の手向けとして白い菊の花を添える。
吐き気がする。
お葬式の中で、私は自分を見失いそうだった。
私は翔太サンの何だったんだろう。
みどりさんに会って、どんな顔をすればいいんだろう。
友人の妹。
きっと、そうだ。
私は号泣するかもしれない。まったく泣かないのかもしれない。
どちらもその場にそぐわないような気がした。
本当はでもそんなことではなくて。
目を閉じる。
こわい。
翔太サン、ねえ。
死ぬって、どういうこと?