with
ここ最近、ずっと同じ夢を繰り返し見ていた。
同じ場面、同じストーリー。
翔太サンが刺され、倒れるシーン。

映画みたいに私はそれを見ている。
いつも、私は見ているだけだ。

「佑香、また残すの?」

ダイニングで席を立とうとすると、お母さんに声を掛けられた。
私はお母さんを見る。

「ごめんなさい。あまり食欲がないの」

明日の朝食べるね、と付け足して言う。
最近ずっとごはんが食べられない。
お腹が空いても、口まで食べ物を持って行くと気持ちが悪くなってしまう。

「風邪でも引いたのかしら」

私はあいまいに笑う。
そうだ、風邪だ。そう思った方がいい。
キッチンまでラップを取りに行く。
家族の視線が痛い。
私の様子がおかしいことに、みんな気付いている。
何とか繕っていつもどおりにしていたいのに、私は失敗している。

(おかしいな、昔はこれくらい何ともなかったのに)

何にも関心がなくて、感情が動かない。
おとうさんに、おかあさんが怒鳴り合っていても平気だった。
ごはんを食べられたし、眠れないことなんてなかった。

(何でもない、何でもない)

自分に言い聞かせる。
何も考えるな。

何でもない。
私たちは、何でもなかった。
ケン兄の友だちと、友人の妹の私なのだ。
でも、仲が良かったから、普通は泣くのかな?

わからない。

(わからないよ、翔太サン)

口癖みたいになっている。
無意識で心の中で呼んでしまった名前に、後悔する。

戻らなきゃ。
いつもの自分に。
ダイニングに戻らなきゃ。
いつもみたいな自分に戻って。

ところで、いつもみたいな自分って、何?

胃がムカムカする。
ここずっと、妙に目が乾く。
胃液の酸っぱさが喉までせり上がってくるし、こめかみが痛い。

私は笑ってみる。
鏡がないから、笑うことに成功したかは分からなかった。
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