なれたなら。ーさよなら、私の大好きな人ー
和室に近付くと見えてきたのは翼さんの腕の中にいる夏生。
「茜の分まで自分がしっかりしないとって思うのは分かるけど、傷ついた心まで隠しておく必要はないんだよ?
こういう時は素直に泣いていいんだ。
大丈夫。ここには僕と茜しかいないから」
「……っ!ありが、と…つばさくっ…」
夏生は翼さんの言葉で肩を震わせている。
……夏生、泣いてるの?
夏生の悲しみ、苦しみを誰よりも先に拭ってやりたい。
そう思ってずっと夏生の傍にいたはずなのに。
それはいつも叶わない。
夏生が笑顔という仮面をかけて隠してしまうから。
でもその仮面をとったのは俺じゃできなかった。
ねぇ、夏生。
どうしたら俺にもその悲しみを分けてくれるの?
夏生が俺の腕の中で泣いてくれたなら、どれだけ幸せだろうか。
「…おねえ、ちゃん…っ…ふっ、おねえちゃ…ん…っ」
夏生の泣き声を背中で聞いて静かに家を出た。
【side end】