貴方のためだけチョコ、貰ってくれますか?
会社の階段を暗い気分で下っていると、段差に躓いてしまう。

「きゃっ」

転ぶ!
そう思った瞬間、腰に腕が回されて、強く引き寄せられる。

「せ、先輩!?」
「全く本当にお前は危なっかしい」

耳に吐息がかかる程の距離に一気に体温が上がり体が固まる。
そんな私を放って、彼は散乱した私の荷物を拾っていく。

「これ…」

あ。彼が手にしていたのは、あのチョコだった。

「これから彼氏とデートか?」
「ち、違います!彼氏なんていないんで、それは、その、自分用で!」

あぁ、つい嘘を

「彼氏、いないのか?」

彼の問いかけに「はい」と答えると、切れ長の目が見開かれる。
それから彼は何かを考え込むようにしばらくチョコを見つめて顔をあげる。

「この後の予定は?」
「えっと、家に帰りますけど…?」
「そうか、じぁ奢るから食事に行こう」

突然手を掴まれる。
え。何?何?

「ま、待って先輩!食事って彼女はいいんですか?」
「は?俺に彼女はいない」

不機嫌そうに返された言葉に驚く。
そして彼は「あぁ」と立ち止まり、まだその手に持っていたチョコを掲げる。

「このチョコ、貰ってもいいか?」
「え?」

頬を少し赤らめ、射貫くような視線を向ける彼から目が反らせない。

「橘のチョコが欲しいんだ」

心臓が、ドクンと跳ねた。

本当に?そう思ってくれてるの?
もし、そうだとしたら…チョコだけなんて嫌

「あの!本当はそのチョコ!」

貰ってくれますか?
この恋心と一緒に
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