キライ、じゃないよ。
『ちょっと!樫くんっ!護に何したの?』
相手は山近のはずだったのに、飛び出してきた声は山近の嫁、幸島のものだった。
「幸島、鼓膜破れる」
相手が興奮しているときに同じテンションで返すことは厳禁だ。
あくまでも冷静に相手をクールダウンさせていく。
営業でも使うスキルの1つだ。
『……樫くんが、原因じゃないの?』
少し温度の下がった幸島に、あえてゆっくりと話しかけた。
「護に、何かあったのか?」
『……樫くんじゃないなら、なに?あの子があんな風になる理由、他にあるの?』
独り言に変わった幸島にさらに問いかける。
「幸島、答えになってない。護になにかあったのかって聞いてる」
冷静に、と自らに言い聞かせておいて、だんだんイライラしてきた。
護のことなら、いますぐにでも話を聞きたいのに。
『樫くん、護、ちょっと見ない間にすごく痩せてるの』
「は?痩せて……?ダイエットとか?」
『バカ!違う。あの子にダイエットなんて必要ないでしょうが!それとも樫くんがなにか言ったの?』
女からバカと言われたこと初めてじゃないだろうか?
いや、高校時代、幸島からはボロカスに言われてたし、元カノにも言われたことあったわ。