キライ、じゃないよ。
怒りのままに声を出したことで、周囲の客の視線を浴びてしまい、私はあえてゆっくりと座り息を整えた。

原川さんや八田くんも周囲の視線に居心地の悪さを感じているようで、しばらく誰も喋らなかった。


「……胡座をかいていたつもりはないよ。私、樫からハッキリと好きでもなんでもないって、付き合うことは絶対ないって宣言されてたから……」


周りの雑音が戻って来たところで、ようやく口を開いた。


「好きだったけど、そんな風に言われたから告白もできなかった。高校を卒業して、樫と会うこともなくなって……でもずっと忘れられなくて。同窓会で再会した時、あの頃の気持ちが蘇ってきたよ。好きだと思った。でも、樫は私の事をあの頃と同じように友達だと思っていると思ったから……」

「……」

「分かんないもんだね。あの同窓会の日は俺から見たら、樫くんは誰よりも皐月さんのことを気にしてたけど」

「……バカみたい」

「原川……」

「うん、馬鹿みたいなの。私から見たら、原川さんや田淵さんの方が羨ましかったよ。堂々と樫にアピールできたでしょ。私はその時点で諦めてしまった。原川さんが言うように、もっと足掻けば良かったんだよね」


そうだ。足掻けば良かったんだ。いつも受け身でいた。樫から近づいてくれるまで私はなにもしなかった。

もっと真剣にぶつかれば良かった。恋愛対象に見られていないなら、そう見てもらえるように努力すれば良かったんだ。


「……なによ、反省してまた諦めてるじゃん。もう終わりって顔して。皐月さんが今こうしてる間に田淵ちゃんは、一歩も二歩も先を行くわよ。体当たりで行けって私言ったし。今頃樫のところに押しかけてるんじゃない?」




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