キライ、じゃないよ。
「皐月さん、樫くんのところに行けよ」

「……八田くん」


八田くんは既に立ち上がって、コートのポケットから車のキーを取り出した。


「車で送る。原川さんはここで待っててもいいし、タクシー使って帰ってもいいよ」

「無理やりここまで連れてきておいて置いて帰るわけ?ひっど。……八田くんの奢りで甘いもの食べて待ってるから、ちゃんと送りなさいよね……田淵ちゃんから、樫の会社に着いたってさっき連絡きたから……」


八田くんに毒づきながらも、原川さんはぽそりと田淵さんがどこにいるのかを教えてくれた。


「……あんたさぁ、ま、いいよ。ホラ、皐月さん、行くよ」

「う、うん」


促されるままファミレスを出て、八田くんの車に乗った。

本当はまだ心の整理ができてなくて、あの写真を樫が見ていたら、きっともう遅いとも思うのに。田淵さんの想いを受け入れているかもしれないのに……。

今行ったって、遅いかもしれないのに。


「皐月さんはさ、逃げたらダメなんだよ」

「え?」


頭の中がグチャグチャで、未だ覚悟の決まらない私に、八田くんの声は静かに、けれど強く耳に入ってきた。


「樫くんはさ……あの頃はどうだったのか俺にはよく分からないけど、同窓会で再会してからの樫くんはさ、皐月さんのことずっと俺と同じ想いで見てたと思うよ。何度も牽制されたからよく分かる。皐月さんも気付いてるんでしょ?もっと自信持てばいいんだよ。」

「で、でも……」


やっぱりあの写真を見た樫がどう思うか、考えたら怖い。


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