キライ、じゃないよ。

mamori.6





どの位走ったんだろう。息が上がって身体に力が入らなくなってきた。

樫の会社の駐車場からそんなに距離は離れていない。

本当はもっともっと遠くまで逃げたかった。

あんな場面を見せつけられて、直後樫と目が合った……と思ったけれど、彼が追ってくる様子はなかった。

なんて……何を期待してるの私は。

ホント、私はバカだ。樫が追ってくるわけないじゃない。

樫はきっと知ってしまった。

八田くんから聞かされたあの日の写真のこと。

彼もまた田淵さんから見せられたに違いない。

田淵さんがどう話したのかなんて、想像しなくても分かる。

樫は私を軽蔑しただろう。

……違うのに。

誤解なのに。

誤解だったと、八田くんが教えてくれて分かったのに……。

もう、遅い。

樫は私の事を信じてくれないだろう。

だから、田淵さんと……。

思い切り走ったせいで、少し汗をかいたみたいだ。

吹き抜ける冷たい風が身体を芯まで冷やしていく。

頬がピリピリと痛い。

風を避けるために近くの商業ビルへと入った。

クリスマスを目前にして、ビル内は全てクリスマスカラーに彩られている。

温かくて、楽しくて、ワクワクする……そんな私の心とは真反対の空気に居心地が悪い。

今の私、ドン底なのに。




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