キライ、じゃないよ。
「護、行くよ」
「え、?どこへ」
強引に手首を掴まれて、大股で歩く樫の後を小走りでついて行く。
いや、引き摺られていく。
ビルの外に出ると凍えるような寒さに身を縮めた。
繋いだ手にまでギュッと力が入ったことに樫は気付いて私を振り返った。
「寒い?」
言うなり自分の着ていたコートを脱いで私の肩にかけようとする。
ちょ、樫だって寒いのは同じでしょう?風邪ひいちゃうのに。
「いいよっ、樫が風邪引く……」
「いいじゃん、風邪ひいたら看病してよ。彼女がつきっきりで看病してくれるのっていいよなぁ……」
「な、何バカなこと言って……」
「なんなら身体で温めてくれてもいいけど?」
何の気なしに言ったのだろう、樫の言葉に身体が大きく震えた。
思い出したくない画が浮かんで、慌てて記憶の抹消作業にかかる。
忘れる、忘れる、忘れて!
呪文のように唱えた。
「ホント、腹立つ!」
急に声を上げた樫を驚いて見上げた。
私を見る樫の目が、痛みに耐えるように歪んでいる。
「か、し……私、」
「車まで、もう少しだから」
再び手を引かれて歩き出す。
そのあとは車に着くまで、お互い喋る事もなく、私も大人しくついて歩いた。