キライ、じゃないよ。
「……えぇと、もしかして八田(やた)くん?」


目の前に立つ体格のいい男性を見て、必死に記憶の引き出しを開けていく。

やっと思い出して、それでももしかして……なんて言葉を付属させてしまうくらい彼、八田くんは昔の印象とは違っていた。


「良かった。思い出してくれて……なんて、俺結構変わったって言われるから、逆に分かってくれて嬉しいわ」

「うん。逞しくなったよね、八田くん」


私の……いや、私達同窓生が知る八田 俊樹(やた としき)という人は、ヒョロリと細長く、少し頼りない印象だった。

昔で言うもやしっ子と呼ばれるような……そんな感じ。

けれど今目の前に立つ八田くんは、あの頃の面影は僅か残す程度で、別人みたいだ。


「大学に入って柔道始めたんだ。今は警備員として働いてる」

「警備員?すごいね、八田くんすごく頑張ったんだね」


昔の彼を考えるに随分努力したのだと思う。


「皐月さんにそう言ってもらえると嬉しいや。俺が頑張るきっかけをくれたのは、皐月さんだから」


笑顔でそんな言葉を照れもせず紡ぐ八田くん。

私ワインで酔って聞き違えたんだろうか?


「変わってないなぁ、皐月さんの自覚なくてキョトンとするところ」

「え、?え、あの?」


なにがおかしいのか八田くんは、ふはっと息を吐き出すように笑った。
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