キライ、じゃないよ。
「皐月さん」

八田くんが持っていたグラスを脇に置き、改まった様子で呼ぶから、慌てて私もそれに倣いワイングラスをテーブルの隅に置いた。

八田くんのグラスに入っていたのは、ソフトドリンクだと思う。けれど彼の顔は酔ったように赤くなっている。

訳もわからずただ八田くんの様子を見守るばかりで……。


「……今日会えたら言おうと思ってたんだ。皐月さんの事、高校の時からずっと好きだった」

「え?あ、高校の時……」

「そう。知らなかったよね。俺、初恋は皐月さんだったから」

「えっと、そう……なんだ。ありがとう?」


どう返したらいいのか分からずに、しどろもどろになる私を見て、八田くんはおかしそうに笑った。


「その、ありがとうってのは、俺の気持ち過去形に取られてるから?それとも現在進行形でも迷惑じゃないって意味にとっていいのかな?」


唖然とするくらい前向きに押してくる彼からのアプローチに、私はただ驚くばかりだ。


「……ごめん、ちょっと混乱してる。八田くん全然別の人みたいなんだもん」

「そうかな?結構勇気出してるよ。キモいとか言われるの覚悟で告白したし」


そんな小さな呟きに、あの頃の自信なさげな八田くんがチラリと見えて、あぁ、やっぱり目の前にいるのはあの頃と同じ八田くんなんだ。精一杯伝えてくれているんだって思ったら、急に現実味が出て来て恥ずかしくなった。

八田くんが、私の事を好き?多分、今も……?



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