キライ、じゃないよ。
待合室にいたのは確かに山近くんだった。
スーツ姿に頭頂部にガーゼを当てた姿でうな垂れている。


「山近くん?」

「え?あ、そっか。ここ皐月が勤めている病院か……」

「仕事中の怪我?」

「いや、労災じゃない。」

「う、うちのアパートの階段から落ちちゃって……」


山近くんの言葉に付け足すように口を挟んだのは、山近くんに寄り添う形で座っていた女性……って、あれ?


「友奈?友奈じゃない」


勝間 友奈、私達の同級生であり、同窓会をしたホテルのコンシェルジュだ。

会うのは同窓会の日ぶりだ。


「良かったよ、見知った顔がいる病院で」

「それは、うん。いいんだけど……」


珍しいツーショットに経緯は気になるものの、仕事中だったことを思い出し、とりあえず山近くんを処置室へ案内した。

ベッドに横になってもらい、傷口を確認する。

頭頂部に挫滅創。申し送りの通りで、傷口の周囲のこびりついた血液をキレイにしてみると確実に縫合は必要そうで。


「山近くん、これ、縫う事になるんだけど、周りの髪ちょっと切ってもいいかな?」

「……いいけど、傷口ってやっぱ禿げる?」

「縫ったところは……正直生えないかもしれないね。でも、極端に髪を短くしなければ、目立たないんじゃないかな?」

「そっかー。ん、分かった。頼んます」


山近くんの了承を得て、周囲の髪をギリギリまで短く切って傷口を見やすくする。
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