キライ、じゃないよ。
すぐに先生が来て処置が始まった。

局所麻酔の準備をして、消毒を渡す。

外科の先生だから手際よく傷口をキレイに寄せて縫っていく。

4-5針かけて無事に処置が終わり、頭部外傷の患者に渡している『頭部外傷後の注意』が書かれた紙を渡して説明した。

これで普通なら終わり。「お大事に」と帰して終わりのはずなんだけど……。


「守川さん、私ちょっと今の患者さんに用事があるから、片付けが終わったら病棟に戻っていてくれる?」

「分かりました。外傷の処置教えてもらってありがとうこざいます 」


丁寧に頭を下げた彼女に軽く頭を下げて返し、私は山近くんの元へ向かった。


「山近くん」


山近くんだけでなく、隣に付き添う友奈も一緒に振り返った。


「皐月、迷惑かけたな」

「迷惑だなんて、そんなことないよ。それより大丈夫?」

「平気。麻酔が地味に痛かったけどな」


ヘヘッと小さく笑う山近くんに、隣にいた友奈が心配そうな顔をして見守っている。


「頭、打ってるんだから無理しないでね。調子悪かったら早めに受診してよ?あ、香に伝えておこうか?」

「いや、いい。と言うか、今日のこともアイツには内緒にしていてほしい。頼むよ、皐月」

即座に拒否されて少し驚いた。婚約中の2人の間で隠す必要もないのに。

……友奈と二人で来たことに何か訳があるんだろうか?

チラリと友奈を見ると私の視線には気づかない様子で、山近くんを見つめている。

こんな不安気な友奈を初めて見た気がする。



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