キライ、じゃないよ。
「ちょっと、香聞いてる?」

「あー、うん、聞いてる」


仕事を終わらせ待ち合わせの店に来ると、香はすでに来ていて、ぼんやりとした様子でメニューを見ているところだった。

2人で取り敢えずノンアルコールの酎ハイを頼んだ。

昼間の様子だと、香から何か話が聞けると思ったのに彼女はずっと上の空だ。


「ねー、護」

「ん?」


やっと口を開いたかと思えば、香はへらっと情けない顔で笑う。


「私がさ、宏也と別れたのってどうしてか知ってる?」


お通しのもずくをツルッと啜いながら、香の顔を見上げた。


「……高校卒業と同時に別れたんだったよね。そう言えばあの時理由聞いたけど、香教えてくれなかったよね」

「……私さ、浮気したんだよ」

「は?」


信じがたい言葉に間抜けな返事しかできなかった。


「浮……気?香が?」

「陸上部の副キャプと」

「あ、え?」


陸上部の副キャプと聞いて思い出したことがあった。

あの頃、山近くんと付き合っていると知りながら香にアプローチしていた先輩がいた事を。

でも、香は相手にしていなかったはずだけど。


「宏也ってさ、誰にでも優しかったじゃない。付き合ってても女友達多くって、大事にされてないとは思わなかったけど、樫くんみたいに護だけっていう特別感も感じなかったんだ。藤間(とうま)さんは、そんな私に……私だけに特別感をくれたんだよね……で、揺れた」

「揺れたって……」

「あ、揺れたっていっても、キスしただけだよ。先輩が私の大学の合格を祝いに高校まで来てくれて……その時に」

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