キライ、じゃないよ。


「あの頃、宏也のことを好きな子って、結構いたのよ?アイツ鈍感だから、余程図々しくアプローチしないと気づかないし、そういう相手には一応私に遠慮して近づかないようにしていたみたいだけどね……」


香の空になったグラスを脇に避けて、店員を呼んだ香は、次もノンアルコールを頼む。

お互いに車で来ているからお酒は飲めない。

だからノンアルコールなんだけど、こんな話をしている時こそお酒に酔いたい気分だ。


「あ、私もずくとワカメの酢の物と、モッツァレラとトマトのサラダと……」

「揚げ物、頼む?」

「私、今日脂っこいものはいいや」

「……そう。じゃあ、私ホッケ食べたい」


2人で適当に頼んだ料理が並ぶ頃には、山近くんと友奈の話は脇に置かれていた。

なんていうか、これ以上湿っぽくなるのは避けたくて。


「それで、護の方はどうなの。樫くんと連絡取ったの?」

「……まだ」

「樫くんも可哀想に」

「どうして樫が可哀想なの?めんどくさいって言われた私の方がよっぽど……」

「めんどくさくもなるでしょ。好きな相手が目の前にいて、抱きしめて、キスして……これからって時に別方向へベクトル向いたら、萎えるでしょーが」

「な……萎える?」


え、と、それって、樫があの後私とそういう関係に進むつもりでいたと……。



< 162 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop