キライ、じゃないよ。
「あれは、キツかったな。俺は離れたって香とならやっていけると自信があった。アイツも俺が県外の大学受けること聞いても何も言わなかったしよ。てっきり遠距離でも大丈夫って俺と同じ考えだと思ってたのにな……あっさり振ってくれちゃって」
当時を思い出したのか、寂しそうな目をした山近が近くにあった煙草に手を伸ばした。
「やめたんじゃなかったか?タバコ」
「……たまにな、吸いたくなるんだよ」
煙草を1本取り出して口に咥える。
ゆらりと細く天井に伸びていく灰色の煙をぼんやりと目で追った。
「でも、ま、良かった。それさっさと渡してハッピーエンドって報告聞かせてくれ」
「そだな。明日にでも会いに行って渡してくるわ」
山近は小さなビロードの箱を握りしめて、煙草を咥えたままヘラッと笑った。
「ところで、そっちはどうなんだよ」
「あ?」
幸せいっぱいの山近の話に胸焼け一歩手前だった俺の胃が、一気に冷えた気がした。
「あー、俺もしっかりしないとな」
「なんだよ。てっきり上手くいってると思ってたけど、違うのか?」
「絶賛喧嘩中」
「はぁ?おまえ、何したんだよ」
「何もしてねーよ。する前に逃げられたんだからな」
「マヌケだ」
今度はこっちが呆れられる番かよ。
まぁ、確かにあれから連絡1つできていない俺が、1番自分を情けないと思ってるけどな。