キライ、じゃないよ。
「おい、スマホ、ブルってねぇか?」
最近はプライベートの携帯を持ち歩くようにしていた。
ただただ、護からの連絡を待っていたからだ。
こちらから連絡しなければと思う反面、護からの連絡を望む俺はやっぱり狡いな。
コートのポケットに入れていたスマホのバイブ音を目敏く聞きつけた山近に言われて、慌ててスマホを探った。
液晶画面に現れた名前は、待ち望んだ相手からのもので。
思わず山近にその画面を見せていた。
「アホ、早くでてやれよ」
「分かってるよ、」
山近が「よかったじゃん」と親指を立てたのを横目で見ながら、一度大きく息を吸って護からの電話に出た。
『……樫?』
躊躇いを含む護の声が鼓膜を震わせて、柄にもなく感動してしまった。
「あぁ。……あの、護、あのな」
『樫、今お酒飲んでたりしない?』
「は?」
護からの突拍子も無い問い掛けに、戸惑い間抜けな声をこぼす。
けれど返事を待つ様子が伝わってきて、飲んでないよと答えた。
『申し訳ないんだけど、今から言うところにタクシーで来てもらえないかな?あ、免許証忘れないでね』
「は?一体どうした?」
『あ、そうか。ごめん。説明足りなかったね。香が急に倒れて……』
「幸島が倒れた?」
護の言葉を繰り返したところで目の前の山近の表情が変わる。