キライ、じゃないよ。


「樫、それ貸して!」


言うが早いか、俺の手からスマホは飛びかかってきた山近に奪われた。

話し始める前になんとかスピーカーボタンを押せた。


「皐月?香が倒れたってどういう事⁉︎」

『え⁉︎や、山近くん?あ……樫と一緒にいたんだ』

「そうだよ、一緒にいた。で、今ちゃんと聞こえたからな?香が倒れたってどういうこと?大丈夫なのか?」

『山近くん、落ち着いて。香、貧血起こしたみたい。今は落ち着いてる。樫に来てもらうように頼んだのは……香は私が送っていくとして、車をね』

「なんで?なんで俺にかけてこないの?」

『……それは』


言い淀む護に山近は解せないと低く呻く。


「俺が行く」

『え?ちょ、山近くん?』


スマホは床に放り出され、スピーカーからは護の山近を呼ぶ声が聞こえる。

後ろからは賑やかな声が聞こえるから、多分どこかの店なんだろう。

スマホを拾い、護に山近と2人で行くことを伝えて店の場所を聞いた。

山近と一緒にタクシーに乗り込む。

隣の山近は不機嫌を隠しもせず、「なんなんだよ!」と繰り返している。

ま、無理もないけどな。

頼ってほしい相手に頼ってもらえないなんて、それが恋人だとしたら尚更腹立たしいのだろう。


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