キライ、じゃないよ。
「……送る」
前に進みたいとは思っているが、この状況はまるでこの前の再現だ。
もう一度逃げられたら、多分俺当分立ち直れないかもしれない。
「う、うん。お願いします……」
護も何かを察したのか、何も言わずにシートベルトを締め直した。
車内のデジタル時計が22時を示している。
明日は休みだ。
護との話は改めて明日にでも……。
「な、護。俺明日休みなんだ。だから、その明日会えないか?」
「えっ?あ、そうなんだ。えと、そ、だね。会おっか……」
とりあえず約束をこぎつけただけでも一歩前進だと思おう。
護の道案内で彼女が住むアパートに着いて車から降りる。
「じゃあ、俺タクシー拾って帰るから。戸締りちゃんとしとけよ。明日仕事終わったら連絡くれる?迎えに来るから、飯食いに行こう」
護りの返事を待って、しばし沈黙に落ちた。
「……護?」
俯いた彼女の口から呟くような小さな声が溢れる。
え?なに?聞こえない。
ちゃんと聞き取ろうと体を寄せた。
途端、コートの端を摘む護の手が見えて僅かに引かれた。
「あ、上がっていかない?」
言い終わると同時に見上げてくる護の瞼が小さく震えるのが見えた。
情けないが、思い切り動揺した。どういう意味かと問いたくなる。
けれど言葉にできず、息が詰まってギュッ、と胸の辺りが締め付けられる。
「ごめ……っ、無理……ならいいっ」
絞り出すような、泣きそうな、そんな声が聞こえて、俺を引き止めていた手が離れていく。
それを目にした途端、向きを変えて背中を見せた護を、思わず背後から抱きしめていた。