キライ、じゃないよ。
もっと近くに……

mamori.8






“上がっていかない?”

勢いで、といえば勢いだった。

香と山近くんの誤解が解けることを安堵し、幸せな2人の顔を想像したら、正直2人が羨ましいと思った。

着々と幸せに進んでいく2人のように、私も樫と幸せになりたいと思った。

でも、忘れていたわけじゃないけど、私達絶賛喧嘩中だったわけで。

しかも、さっき車を脇に止めて話をした時、多分樫もあの夜のことを思い出していたはずで。

だから。

だから、ほんの少し距離を縮めたかった。

私だって樫と前に進みたい。

結婚とかそういうことじゃなくて、先ずは誰よりも樫の近くにいられる人間になりたい。

高校の頃は素直になれずに、自分から歩み寄ることもできず、逆に離れてしまった。

本当は好きだった。

なんとも思っていないと、付き合うことはあり得ないと、そんな風に拒否されて傷ついて、自分からはなにもせずに逃げた。

樫が本当は私のことをどう思っているのか、曖昧で分からない。

だからといって、また自分からは動きもせずに逃げたら、きっと前よりももっと深く後悔すると思った。

だから、ほんの少し歩み寄りたかった……んだけど。

考えてみたら、夜だし、こんなに遅い時間だし、まるで誘っているみたいだと、思った途端恥ずかしくなった。

樫だってなにも言わないし。

きっと呆れた。軽い女だと思われた。

最低だ。


「ごめ……っ、無理……ならいいっ」


今すぐこの場所から、樫から離れたかった。

だから、樫の顔も見ずに背中を向けて逃げた。

けれど、気付けば背後から樫に抱きしめられていて、肩に置かれた樫の頭の重みを感じていた。



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