キライ、じゃないよ。
もっと近くに……
mamori.8
◇
“上がっていかない?”
勢いで、といえば勢いだった。
香と山近くんの誤解が解けることを安堵し、幸せな2人の顔を想像したら、正直2人が羨ましいと思った。
着々と幸せに進んでいく2人のように、私も樫と幸せになりたいと思った。
でも、忘れていたわけじゃないけど、私達絶賛喧嘩中だったわけで。
しかも、さっき車を脇に止めて話をした時、多分樫もあの夜のことを思い出していたはずで。
だから。
だから、ほんの少し距離を縮めたかった。
私だって樫と前に進みたい。
結婚とかそういうことじゃなくて、先ずは誰よりも樫の近くにいられる人間になりたい。
高校の頃は素直になれずに、自分から歩み寄ることもできず、逆に離れてしまった。
本当は好きだった。
なんとも思っていないと、付き合うことはあり得ないと、そんな風に拒否されて傷ついて、自分からはなにもせずに逃げた。
樫が本当は私のことをどう思っているのか、曖昧で分からない。
だからといって、また自分からは動きもせずに逃げたら、きっと前よりももっと深く後悔すると思った。
だから、ほんの少し歩み寄りたかった……んだけど。
考えてみたら、夜だし、こんなに遅い時間だし、まるで誘っているみたいだと、思った途端恥ずかしくなった。
樫だってなにも言わないし。
きっと呆れた。軽い女だと思われた。
最低だ。
「ごめ……っ、無理……ならいいっ」
今すぐこの場所から、樫から離れたかった。
だから、樫の顔も見ずに背中を向けて逃げた。
けれど、気付けば背後から樫に抱きしめられていて、肩に置かれた樫の頭の重みを感じていた。