キライ、じゃないよ。
「上がる。上がるけど、その前に言っとく」
「な、なに?」
「コーヒーだけ、とか、お茶だけってことなら止めとく。……多分、俺それだけでってのは、自信……ない」
耳元に落とされる余裕のない樫の熱のこもった声に、急速に心臓が暴れ出した。
やっぱり誘われたと思われた。
思われたけど……でも、多分軽いとか、呆れたとかではないのは、樫の余裕のない声で分かった。
経験の有無について、香と語り合ったのは少し前のことで。
そんなにすぐには覚悟もできないし、はっきり言って怖い。
そう怖いんだ。分からないから不安なんだ。
25にもなって、初めての経験に戸惑い恐怖するなんて、情けないし、恥ずかしい。
でも、相手が樫なら、後悔はしないと思う。
だってずっと好きだった人だから。
高校の時から、7年経った今でも忘れられずにずっと胸の中に住んでいた人だから、後悔だけはしないと思うんだ。
私を抱きしめている樫の腕に触れて、頬をその腕に擦りよせた。
「……うん」
頷くだけで精一杯だった。