キライ、じゃないよ。
「ねぇ、樫。あの行列なんだろう?」
彫刻が立ち並ぶだだっ広い芝生広場から、植物園に向かう道に行列が出来ている。
「あー、あれじゃね?」
道の端に立つ看板を見つけて近づいた。なんでも有名な彫刻家の講演会があるらしい。
お互いに芸術には疎く興味がなかったから、その行列を横目に遊園地の方へ向かった。
「あ……。八田くん」
「え?」
足を止めて呟くように八田の名前を口にした護の視線を追う。
行列の脇に制服姿の八田を見つけた。
警備員だったっけ。
「こういうところのお仕事もするんだね」
感心したように言い、八田仕事ぶりをジッと見入っている護の腕を引いた。
なんだか少し、面白くない。
「か、樫?」
「行こうぜ。あっちの遊園地行くんだろ?」
「あ、うん。そうだね、行こう」
護に手を伸ばし、返されたその小さな手を強く握りしめた。
護もそれ以上なにも言わず、俺の隣に並んで歩き始める。
正直今は八田と顔を合わせたくない。
護となにもなかった事は、彼女から聞いて分かっているけれど、それでもムカつく。
俺以外の男が、護に触れたなんて考えたくもない。
あいつだって原川達に利用された被害者だと分かってる。
でも、あいつには今すぐ護とのことを忘れて欲しいし、もう二度と関わって欲しくない。
了見の狭い男だと分かってはいるけれど、やっぱり嫌だ。
早くこの場を離れよう。そう思って護の手を引き足早に進んだ。