キライ、じゃないよ。
『……護ってば、聞いてる?』


完全にトリップしていたのだと思う。携帯の向こうで耳に劈くような香の声に我に返った。

耳がキンキンする。


「あぁ、ごめん」

『……樫もくるかもよ』

「え、あ、うん」

当然といえば当然だ。来る……だろう。

樫と、久しぶりに会う。

樫と会うのは、卒業式以来だ。

私立の女子大へ進んだ私と、県外の大学へ進んだ樫。

実家が同じ市内にあるとしても、偶然なんてそうそう起こるわけもなくて、会おうとしなければ、会うことはできないんだと、卒業後しみじみと思ったっけ。

樫と同じ大学に進んだ山近くんと、卒業と同時に別れた香はその後新しい彼を作っていたけれど長く続く付き合いはできなかったようだ。

私は付き合いたいと思えるほどの人とは出会えなかった。

もしかしたら引きずっていたのかもしれない。

香も……そして私も。

香は決して認めなかったけれど。


「……樫は私なんかに会いたくないんだろうなぁ」


ポツリと落ちた自虐的な言葉。


『何言ってんの、まだあん時の事気にしてるの?あんなの樫が照れ隠しで言った事でしょう。本気にしてどうするの』


独り言をしっかり拾われて、ウッと詰まる。


「案外本気だったのかもよ?私が同じく返した言葉にホッとしてたの見たもの」


樫がホッとして、私と目が合って……お互いに苦笑した。


あれが事実だ。


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