キライ、じゃないよ。
護の態度に引っ掛かりを感じて、けれどそれを追求することもできずに次の授業が始まって、護は自分の席に戻っていった。


バレンタインにチョコをもらうことに、さほど意味なんてないと思っていた。

イベントに乗っかってチョコをばらまくお菓子業界のお祭りに、暇人が参加しているだけ。

俺にとっては、そんななんの意味も持たない日だった。

たくさんもらったチョコを羨ましがる山近の気持ちも、面倒な手作りをしてまで山近にチョコを渡した幸島の気持ちも、普段ろくに話したこともない相手にチョコを持ってくる女子達の気持ちも。

俺には全く分からなかった。

だけど、何故か護のあの態度だけは気になって仕方なかった。


「なぁ、」


放課後4人でカラオケに行く予定で、担任に呼ばれた護と幸島を教室で待っていた俺は山近 に声をかけた。


「あ?なんだよ」


山近は幸島から貰ったという一口サイズのチョコレートケーキを、口に運んでは幸せそうに頬をゆるめている。


「護のやつ、誰かにチョコあげたとか聞いてるか?」

「……いや。聞いてねぇけど」

「アイツ、昼間チョコの話しした時にさ、なんか様子がおかしくてさ。あれは絶対なにかを隠してる」


誰かにあげたのか?と尋ねたあの時の反応って……あれって、絶対誰かにあげたってことか、あげるつもりだってことじゃないのか?

それを俺に知られたくないから、あんな風に誤魔化した。

なんだよ、それ。

別にからかったりとか邪魔したりするつもりなんてないのに。

ただ、ずっと近くにいたのにアイツにそんな相手がいるなんて、全然気づかなかったし、教えてももらってない。

友達、なのに。
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