キライ、じゃないよ。
「皐月だって、好きな奴くらいいるだろ?」

「は?なに、それ。お前、知ってるのか?相手のこと」


山近の言葉に驚いて、身を乗り出して山近に聞いた。


「おわっ、待てこら!俺のチョコレートケーキ潰れるだろが!」


ほんの数センチずれていれば間違いなくプレスされていたであろう幸島の作ったチョコレートケーキを、憤慨しながら山近は自らの胸に引き寄せ庇う。


「知らねぇよ。ただいたっておかしくないだろって話だよ」

「護に好きな奴がいるなんて……考えたこともねぇし」

「お前な、皐月のことなんだと思ってんだ。アイツ結構人気あるぞ。去年卒業したバスケ部の副部長に告られてたし、2組の中本にだってクリスマスに誘われたらしいし」

「マジで……?」

「香の話だとファンはもっといるらしいしな。まぁ、告白は全部断ったみたいだけど」


天地がひっくり返るとまではいかないが、正直ショックだった。

護の事を好きな奴がいて、チョコを渡したいと思う相手が護にいるという事実に。

呆然とする俺の耳に教室の扉が開く音が聞こえて、ハッとして顔を上げればそこにいたのは護達ではなく、クラスの男子達だった。


「なん、樫達まだ残ってたのか?」

「おぅ、お前らは?」

「大学の事で担任となー。お前らも担任に用があるならまだ待つ覚悟しとけよ。他にも何人か待ってたぞ」

「俺らはカラオケに行くんだよ」

「はぁ?受験生が余裕だな、てか、山近は推薦受かってたんだっけ?いいよなぁ……」

「俺も明日からはまた勉強勉強だよ。今日はちょっとした息抜きだよ」

「俺らも息抜きしてぇ……てか、チョコ欲しいー」

急にチョコの話に戻って、俺はさっき話を思い出してどきっとした。




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