キライ、じゃないよ。
八田くんが先にお店を出て行き、それを見送った私達はほんの少しの間誰も喋らなかった。


「いや、マジで変わったな八田。いい意味で」


山近くんが感心したように言って、香がそれに同意する。


「あれはモテるでしょう」

「香、婚約早々浮気宣言か?」

「馬鹿。そんなわけないでしょ、大体八田くんが好きなのは護……」


香が言いかけて、自らの失言だと思ったのか慌てて手で口を塞いだ。

2人の視線が自然と私と樫に向かう。


「皐月は、また八田に誘われたら……行くのか?」

「え?」


山近くんの少し責めるような言葉に、とっさには答えられず口籠る。


「別にいいじゃない。護はフリーなんだし、八田いいヤツそうだから、護のこと大切にしてくれそうだし?」

「お前ねぇ、ちょっと黙っとこうか?」

「なによ」


隣で始まった小さな言い合いにどうしたものかと思案していると、目の前の樫の様子がおかしいことに気づいた。

さっきから全然喋ってない。

今日は最初からなんだかずっと変だ。一体どうしたんだろう。


「樫……」


「俺らもそろそろ帰ろうぜ。山近は幸島を送れよ。俺は護を送る」


不意に顔を上げた樫がコートを脇に抱え、みんなにも出るように促して来た。


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