キライ、じゃないよ。
会計は既に八田くんが済ませてくれていたみたいで、驚きつつも私達は彼の親切に甘えた。

店の前でタクシーを拾った山近くんと香に別れを告げて、私は何故か樫に言われるまま駅までの道を並んで歩いた。

今年の冬は暖冬らしい。

そうは言っても雪が降ってもおかしくないこの時期は、マフラーに埋もれていないと首元に入る風に身が縮こまる。


「寒いね」


「そうだな。……悪いな、もう少し酔い覚まししたくて……付き合わせて悪い」


隣を歩く樫を見上げると、彼もまたマフラーを口元まで引き上げ、大きな体を少し丸くさせていた。


「いいよ。私、冬の夜ってキライじゃないから。星、綺麗に見えるし、」

「そっか」


繁華街を抜けて、駅は銀杏並木の向こう側にあった。

2人並んで歩きながら、時々樫が「寒くないか」と心配してくれる声に頷く他は私達は黙ったまま歩いた。

八田くんに誘われた飲み会で、まさか樫と再び会えて、こんな風に並んで歩くことができるなんて思いもしなかった。

嬉しいと思う反面寂しさもある。

あの頃と同じように、樫は私が誰といても自分には関係ないと思っているのだろう。

山近くんや香も八田くんのことを褒めていた。

香なんて、八田くんのことを勧める素ぶりまで見せた。

私が誰に想いを寄せているか、彼女は知っているくせに。


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