キライ、じゃないよ。
樫も同じかもしれない。

私がずっと昔から、そして今も樫のことを好きだと知らないから、残酷なほどアッサリと八田くんを勧めてくるんだろう。

私がどれほど傷付くか知りもしないで。

あの日、教室で樫が言い放った言葉を今更のように思い出す。

まるで今、まさにその言葉を言われているような、そんな錯覚に襲われる。

ずっと一緒にいて、他の誰よりも樫の近くにいるのは自分なんだと思っていた。

嫌われてはいないと思っていたけれど、まさか女として見てもらえていなかったなんてね。

情けないわ、女としての魅力ゼロってことだもんね。

25になった今も、樫に女として見られていないとしたら……凹むというか、減り込むよ私。


ヒュウッと風が体を吹き抜けて行った。


「寒っ、樫、駅まであと少しだよ。急ごうか」


あまりの寒さに酔いが一気に冷めて行く気がした。

今はただ暖かい場所に行きたくて、樫を急かして一歩を大きく踏み出した。


「護、」


いつしか皐月から護と呼び名が変わっていることに今更気付いた。

名前を呼ばれて、足を止めて振り返ろうとした時、手首を掴まれ引かれた。

体のバランスが後ろへと傾く。

え、?

戸惑いに揺れた次の瞬間、トンッと背中が温かい体温に支えられた。



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