キライ、じゃないよ。
ふわりと柔らかな物に包み込まれた気がした。

気付けば私は樫が纏うコートの中にいた。

背の高い樫に背後から抱き込まれている。

背中に樫が着ていたニットが柔らかなクッションみたいに私を支えているのを感じた。

え?え?え?

頭の中疑問符の嵐、いや吹雪?

軽くパニックに陥っている私の右肩にさらなる試練がコツンと、のっかかってきた。

樫の髪が耳元に触れているのが微妙にくすぐったい。


「か、樫?どうしたの……もしかして気分悪い?タクシー呼ぼうか?」


心臓が飛び出てきそうなほど激しく胸を打っている。

このまま抱き締められていたら、心臓の音が樫にまで聞こえてしまう。

体が震えて、声まで震えてくる。

ただの友人にそんな反応されたら、樫はきっと困るに違いない。


「護、また八田と会うの?」

「え?」


耳元で囁かれ、樫の息が耳に触れる。

背筋に鳥肌が立って、思わず声が溢れそうになって唇を噛んだ。

恥ずかしくてどうにかなりそうで、樫の小さな呟きは聞き返さないと分からなかった。


「八田と……付き合うの?」

「樫?」


耳元に落ちる樫の声が震えているような気がした。

なんだかすごく切なくなる。

そんな声。





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