キライ、じゃないよ。
樫と私の息が混じり合って溶けていく刹那、携帯だと思われる電子音が鳴り始めた。

びくりと体が震えて、至近距離の樫と目があった。

樫の目に私が写っているのが見える程の距離。


「ごめん」

「え?」

「携帯、仕事かもしれないから出るな?」


頷くと、樫は私から離れて携帯を取り出してその電話に出た。

び、びっくりした。

今携帯が鳴らなかったら、私は樫と多分キスしていた。

樫と、キス。

信じられないけれど、樫が私にキスしようとしたんだよ、ね?

つい今しがたの樫との会話を思い出して、急に恥ずかしくなった。

恥ずかしくて……だけど、幸せな気持ち。

少し離れた場所で電話をしている樫の背中を見つめる。

胸がきゅうっと締め付けられて、鼻の辺りがツンとした。

樫、私は樫のことが好きだよ。

樫も少し位、私のこと好き?

電話をしている樫の背中をぼんやり見つめていたら、樫の様子が少しおかしいことに気づいた。

電話相手と……揉めてる?


「護、悪い。俺、ちょっと急用ができて……」


電話を終えて戻ってきた樫が困ったような顔で腕時計に目をやり、時間を気にしているのが分かった。

仕事かな?


「う、うん。いいの、行って」


電話中の様子から見ても、急いだ方が良さそうな気がしたからそう答えた。



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