キライ、じゃないよ。
「えぇと、この辺り……だよな?」
繁華街まで戻り、キョロキョロと辺りを見回した。
電話をかけてきた相手は、この繁華街のこの辺りにいると言っていた。
緊迫した様子だったから深くは追求せずここまでやってきたけれど……。
「か、樫くんっ」
周囲の音にかき消されそうな小さな声に気付けたのは、俺の名前が聞こえたから。
自分の高い視界の中では見つからなかったはずだ。声の持ち主は路地の入り口の看板に身を隠すように小さくなっていた。
声の持ち主に近づいて見下ろせば、ガタガタと身体を震わせて、しゃがみ込んで丸くなっている田淵がいた。
頬には泣いた後だと分かる涙の筋が見える。
「田淵?おまえどうして……。原川が今すぐここにきてくれってかけてきたけど、あいつもいるのか?」
電話の相手は原川だった。ものすごい剣幕で言い捨てて、けれど本当に緊迫した様子だったから慌てて来たのだが。
田淵の前にしゃがみ、周りを見渡したが原川の姿はない。
「か、樫くんっ!」
名前を呼ばれて、いきなりぶつかるように抱きついて来た田淵を受け止めきれず尻餅をつく。
「おい?」
腰に手を回し必死で抱きついてくる田淵に驚いて、けれど体勢的に引き離すこともできない。
何より田淵が泣き出してしまったから余計に。