キライ、じゃないよ。
「樫くん、ありがとう」


助手席のシートベルトを外し、田淵は俺に向き直って丁寧に頭を下げた。

毎晩毎晩送るたびにこうして頭を下げてくる。

本当に真面目なやつだと思う。


「気にするなって。今日は待たせて悪かったな……。じゃあ、また明日」


いつもならこうして俺が言えば田淵は車を降りて行く。

けれど今日は違った。


「田淵?どうした?」

「樫くん、まだお夕飯食べてないんじゃない?」

「は?まぁ、そうだけど。帰りにホカ弁寄るから気にしなくていいよ」

「あのっ、あのね!」


思い切ったように声を上げ、俺の腕を掴んできた田淵に驚いて声も出ない。


「も、もしよかったらうちで食べていってくれない?」

「は?いや、いいよ別に」

「私、昨日肉じゃが作ったんだけど、たくさん作りすぎて……じゃがいもって冷凍しちゃうとスカスカして美味しくないじゃない?でも、毎日肉じゃがってのも飽きちゃうから……樫くんが食べてくれると助かるんだけど……迷惑かな?」


迷惑かな?と上目遣いで泣きそうになっている田淵を見ると、迷惑だと言いにくい。

しかも今日はこんな時間まで待たせているわけだし……。


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