キライ、じゃないよ。
「……って、樫くんっ、待って!」
「離せって。今のストーカーじゃねぇのか?捕まえて警察に突き出してやる」
「やだ、樫くん。行かないで、1人にしないで……お願い」
俺の腕を掴む田淵の手が震えていた。
ストーカーが接触して来た事で、ものすごく怖い思いをしたんだろう。
仕方なく捕まえることを諦めて、俺は田淵を抱き起こした。
腕の中の田淵は震えながら俺にしがみついてくる。
「田淵、早く家に入れ。またアイツが戻ってきたら……」
「お願い……樫くん、お願いだから。今だけでいいからそばにいて欲しい。迷惑だって分かるけど……でも、怖いの。1人でいるのが怖い」
ほろほろと両の目から溢れる涙を拭いもせず、必死になって俺にしがみついてくる田淵を放っておくこともできず、俺は止むを得ず彼女の家に上がった。
震える彼女をリビングのソファへと座らせ、キッチンへ行って水を持って田淵の元へ戻った。
「大丈夫か?」
「……うん。ごめん、樫くん。我儘言ってごめんね」
こんな時にまで俺の事を気遣う田淵を持て余していた。
もっと図々しい女なら良かったのに。こんな風に泣かれて、それでも俺に謝る田淵を見ているのが辛くなる。
俺に護という存在がいなかったら、多分田淵に揺れていたかもしれない。
彼女の健気さに揺れない男なんて世の中にいるのだろうか?
結局この日俺は不安がる田淵を1人にすることができず、一晩彼女の家に泊まった。
リビングのソファに毛布を借りて寝た。
翌朝既に目を覚ましていた田淵に押し切られる形で朝食をご馳走になり、田淵の家から会社に出勤したのだった。