優しいあなたの嘘の法則
彼がついてきた、数々の嘘を思い出す。
「ごめん、前の彼女のこと、ふっきれてなくて。今は彼女とかは、いいんだよね」
ーーそれはダイキくんのためを想っての嘘だった。
「俺のアパートも駅の方向だから。ついでに駅まで送る」
ーーそれは私に、余計な気を遣わせないための嘘だった。
「コンビニバイトだよ」
ーーわたしが好きだったと同じ本屋さんでアルバイトをしていることを知ったら、わたしが困ると思って嘘をついた。
「初対面だよ。会ったことない」
ーーわたしを泣かせたくない一心でついた、優しい嘘だった。
優しい想くんがついてきた嘘には、たったひとつの法則性があるということに、
どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。
想くんが嘘をつく時はいつだって、他の誰かを守りたいときだった。
「なんで、泣きそうなの、実希ちゃん」
「っ、だって、」
やっと見えた、分かりにくい彼の優しさの形に、胸がいっぱいになった。心の底から熱い思いがわきあがって、なぜか泣きそうになったのだ。
私は優しい彼に、なんてひどい言葉を浴びせてきたのだろう。
〝なにも知らない私のことバカにしてたの?〟
〝最低、〟
最低だったのは想くんじゃない。私自身じゃないか。