あんずジャム
しばらく考えてハッとする。
(うわ、私またあの人のこと考えてるし…
何で頭から離れないの…)
妙な嫌悪感に駆られる。
『ありがとうございました。…またお越しください』
あれは、お客さん全員に言ってるマニュアル通りの台詞。
分かっているのに、彼の声とその言葉を思い出すと、嫌に心臓が高鳴った。
(でも、あの店員さんに会いたいから、なんて不純な動機で店に行くのは気が引けるな)
優羽は思ってから自分の思考に驚く。
(…って、私、どうしちゃったんだろ)
ふう、と息を吐く。
「うわ、やば」
気がつくと鍋の中の味噌汁がグツグツ煮えたっていた。
優羽は慌てて火を止め器に盛り付ける。
…結局、姉と母との楽しいはずの夕食の間中、モヤモヤしたものが晴れることはなかった。