あんずジャム
「実は、クッキーを焼いてきたんです。」
「え?俺に?」
「は、はい。あの、無理して食べてもらう必要はないんで!」
「ううん、嬉しい。ありがとう」
バイトが終わってから食べるね、といつもの優しい微笑みを見せる玲也に、優羽は心臓がキュッとなるような気がした。
この笑顔は誰にでも平等に見せるものだと分かっていても、嬉しいものは嬉しい。
良かった、とホッと息を吐いた。
クッキーを渡せて、気が抜けたせいか、まだ話したいことはあるはずなのに、言葉が出てこない。
玲也は、そんな優羽の様子を見て、ゆっくり立ち上がった。
「わざわざありがとう。そろそろ店に戻るね」
「あ──」
歩きだそうとする玲也に慌てる。
待って、いかないで。もう少し話しをしていたい。
頭の中ではそんな言葉がいくらでも湧いて出てくるのに、それが口に出されることはなかった。
でも、その代わりに……