あんずジャム
「…優羽ちゃん?」
「あ、えっと」
優羽の手が、玲也の服の裾をしっかりとつかんでいた。
(何してるの?私…)
自分がしている行動に頭が真っ白になった。
風で木々がサワサワと揺れる音だけが耳に入ってくる。
「ごめんなさい…」
いたたまれなくて、すぐに手を離してうつむく。
すると、いきなり手をグイッと引かれた。
驚いて玲也を見上げると、彼は強い光を宿した、真剣なまなざしで優羽を見ていた。
「あのさ──さすがに俺も、そんな風にされると…期待しちゃうんだけど」
いつもの優しい声に、どこか余裕のない乱暴さが混じっている。そんな声だった。
「期待…?」
「…優羽ちゃんは、もしかしたら俺のことが好きなんじゃないか、っていう期待」