あんずジャム


優羽は、例の事件があったあの日、ゆきねに家まで届けてもらった後に、奈々に電話をした。

一日に色々ありすぎて、誰かに話して気持ちを整理したかったのだ。



坂井のことに、奈々は驚き、ものすごく怒っていた。

優羽は知らなかったが、坂井誠という男はかなり有名らしい。

どうして委員会で絡んでくることを相談しなかったのかと、優羽も何故か怒られた。



「…でも本当、朝に『2年生が3年D組に殴り込みに行った』って聞いた時は本当にびっくりした」


「だって許せなかったんだもん。あたしの大事な優羽に手を出したのがっ!」



そう。今日の朝休み、彼女は文字どおり、坂井のクラスまで殴り込みに行った。



山村奈々。大会で何度も優勝経験のある、実力派⋅現役空手部員である。


普段の可愛らしい容姿からは想像もできず、本当に人は見かけによらないんだな、と優羽は実感する。


彼女に容赦なくボコボコにされた坂井は、驚いた教師陣に問われても「俺が悪いから」の一点張りだったという。

おかげで、奈々は主に女子の間で英雄扱いである。



「…でも、ありがとう。」


「改めて言われるとなんか照れるなぁ」




良い友達を持ったなあ。

優羽はしみじみとそう思った。


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