あんずジャム
玲也はあんずジャムを丁寧にラッピングして、レジの方に戻り、ぼんやりしている彼女に声をかける。
すると何故か恥ずかしそうに謝られた。
(ここでお釣りを渡したらこれで終わり…
また次はいつ来てくれるかなんて分からない…か。)
このままただ彼女を見送るのが、どうしても嫌だと思ってしまった。
玲也は、脳内でだいぶ葛藤した後、思いきって口を開いた。
「お客様、先日もいらしてましたよね?」
「…っ!?」
彼女は戸惑いと驚きが激しく入り交じったような、複雑な表情を見せた。
玲也は少し焦り、慌てて付け足す。
「あ、ごめんなさい。あんずジャムをとても気に入ってらしたのが印象的で…
またご来店くださってありがとうございます」
本当に印象的だったのは、彼女が見せた笑顔だが、さすがにそれを言うと怖がられそうなので、そういうことにしておく。
彼女はまたうつむいてしまった。
玲也は後悔し始めていたが、もう後には引けない。