あんずジャム


ゆきねが唐突に彼女のことを話題にした。

完全に油断していた玲也は、思わず「えっ」と変な声が出る。

篤も思い出したというように言った。



「ああ、そういえば俺も何回か見ましたよ。可愛らしくはあるけど、下手に話しかけたら怖がられそうだなと思いました」


「でも、このままじゃ玲也はずっと名前さえ知ることもできずにいる未来が見えるわねぇ…」




すると、ゆきねは何か良いことを思い付いたという風に、唇の端をキュッと上げる。

何だか嫌な予感がした



「玲也、次あの子が店に来たら名前と連絡先聞き出しなさい」


「…は?」



彼女の無茶とも思える命令は、ある意味予想通りだったが、それでも玲也は言葉を失った。



「む、無理ですよ」


「ええー、じゃあ玲也は永遠にただのお客さんとバイト店員って関係でいいの?」


「っ…よ、良くはないですけど」



つい本音を漏らしてから思う。

この人、絶対に楽しんでる。


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