あんずジャム
「連絡先は無理でも名前くらい聞こうよ、ね?」
「そうだぞ、玲也。俺もあの可愛い子の名前知りたい…って、顔怖いな」
顔の筋肉を緩めるように笑う篤を軽く睨みつけた。
しばらくそうしてから、諦めてため息をもらす。
「…二人とも他人事だと思ってメチャクチャ言ってますけど」
つい数分前に、彼女はおとなしいタイプで、下手に話しかけたらダメだというようなことを言っていたはずだ。
(まあ…名前知らないし、聞きたいのは確かなんだけども…)
向こうからしたら、ただの店員の一人…顔を覚えられているかも正直怪しい。
一度話しかけたときは、また来てほしいあまりにかなり必死だったが、改めて話しかけるとなると…
(いやでも…あれだけ通ってくれてるんだ、顔くらい覚えてくれてる…よな…?)
だんだん自信がなくなり、落ち込みそうになってしまった。
そんな玲也達のもとに、彼女とその友人が訪れたのは、それから3日後のことだった。
初めて来店した日を除くと、彼女はいつも一人だったため、連れがいることは想定外だった。
「店長、今日は彼女一人じゃないみたいですよ。さすがに友達が一緒の状態で話しかけるのは無理ですよ…」