あんずジャム


玲也はゆきねにそう訴えたが、案の定と言うべきか、その訴えが聞き入れられることはなかった。



「あら~、そのお友達には気づかれないようにこっそり口説く…ってのも良いわね!面白そう!」


「面白そうって…」


「じゃああの子達の担当──注文はもう取っちゃったけど、運んだり、お皿下げたり、レジも、全部玲也に任せるわね」



チャンスを作ってやったと言いたげなゆきねを見て、自然とため息が漏れる。



(もしこれで、本当に怖がられて店に来なくなったりしたら、一生恨んでやる)



でもまあ、少しでも親しくなれたら…という下心があるのは確かだ。

玲也は注文された商品を運んだ後、しばらく彼女たちの方をジッと見つめる。



…そして、玲也は一つ、彼女の友人が一緒にいることで有益な情報を得ることとなった。


会話が聞こえるのだ。

そして、彼女の友人は、彼女をこう呼んでいた。


『ユウ』


そう。予想していなかった形で彼女の名前を知ることができたのだ。


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