あんずジャム
玲也は密かに彼女の友人に感謝した。
またしばらくすると、その友人はトイレに行くと言って立ち上がった。
(今…今しか、ない!)
ようやく今日、彼女が一人になった。
玲也は皿を下げるために彼女のいる席へ向かう。
「こちらのお皿、お下げしてもよろしいですか?」
皿に手をかけながら、玲也はこっそり紙切れを置いた。
大したものではない。ちょっとしたメッセージを書いただけだ。
これくらいなら多分大丈夫だろう…
戻ろうとした時、ふと、彼女が持つ参考書が目についた。
『2ーC 赤崎優羽』
それを見た玲也は脱力した。
彼女の学年とフルネームを、こんなに簡単に知ってしまった。
優しい羽
「ユウハ」とも読めるが、友人の呼び方からすると(あだ名の可能性もあるが)、「ユウ」と読むのだろう。
高校2年生ということは、玲也より3歳年下だ。
彼女──優羽の席から離れ、見えない所まで来ると、玲也はそっとため息をついた。
(気がつくかな…)
確認したいが、既に気づいていて、読んでいたとしたら、反応が怖くて見られない。
考えると不安が膨らんでくるので、とりあえずは仕事に集中することにする。
どうせ優羽が会計に来るときにはゆきねに呼ばれることは分かっているので早めにレジに入っておく。
幸いにも、人手は足りている。