あんずジャム
期待していたわけではないが、優羽は特にコスプレのようなものはしておらず、見慣れた制服姿だった。
玲也は優羽に近づこうと、人の波をかきわけて進む。
この辺りから声かけたら気づいてくれるだろうというところまで、何とかたどり着いた。
「優羽ちゃ…」
「赤崎さんっ!」
玲也が優羽の名前を呼び掛けたのと、焦げ茶色の髪をした男子生徒が、玲也を追い越し、優羽のもとへ走っていったのと、ほぼ同時だった。
彼の声に振り替える優羽を見て、玲也はとっさに身を隠す。
その男子生徒を目にした優羽は、微笑んで会釈した。
二人の会話に聞き耳をたてる。
「坂井先輩。お疲れさまです」
「お疲れー、赤崎さんのクラスはどう?」
「お陰さまで、なかなか好評ですよ」
「それは良かった。
…ところで赤崎さん、今から予定は?」
「奈々ちゃん…昨日一緒に回ってた友達が部活の方に行っているので、今日はこのままクラスのところにいようかと」
「じゃあさ、良ければこれから一緒に回らない?」
「いいですよ」