あんずジャム
アメリカの企業で働く父と、人気デザイナーで世界を駆け回っている母。
そんな両親を持つため、この家では実質、大学生の姉、美羽との2人暮らしである。
マンションのセキュリティはしっかりしているし、料理が得意な優羽と何事もそつなくこなす天才肌の姉とで、特に困るようなことはない。
「ただいま」
母が玄関を開けて、恐らくリビングにいるであろう美羽に帰りを知らせる。
予想通り、リビングから美羽の気のない返事が聞こえた。
「んー…ああ、お帰り」
「すっごく素敵なカフェを見つけてね、お土産にジャムとスコーン買ってきたの」
「ちょうど良い。甘いものが食べたかったんだ」
「夕飯食べれなくなったら困るからちょっとだけね」
美羽と話ながら台所へ向かおうとする母に、優羽は慌てて声をかけた。
「あ、お母さん、夕飯私が作るよ。お母さんも美羽ちゃんと休んでて」
「あら、本当?
でもいつも優羽が作ってるでしょ?
たまにはお母さんにも作らせてよ」
「大丈夫だから」